ピアノ教室

「ええ、ちゃんと帰るわ」

沙織先輩が、携帯で話している。感じからすると、お母さん? 下校途中の通学路、先輩の隣を歩きながらその会話をぼんやり聞いている私。クラブの打ち合わせのために私の家に寄ることになって、学校を出ると電話がすぐかかってきたのよね。
それにしても早く帰って来い、みたいな話だけど、普通ここまでしつこく言うかしら? さすがに先輩も、少し苛ついてきたみたい。

「わかってる。こないだみたいなことはしないわ」
「大丈夫。じゃあ」

先輩は逃げるように携帯を切ると、ため息混じりにぼやいた。

「うちの親、厳しくて嫌になっちゃう」
「そうなんですか?」
「まあ私が悪い面もあるけど、少しうるさすぎね。それに」

先輩は少し言い淀んだ後、つぶやくように言った。

「すぐに、その、お尻をたたくの」
「!」

先輩の言葉を聞いて、思わず立ち止まる。
え、それはつまり先輩のお母さんが先輩のその、お尻をっていうこと?
クラブでお世話になっている先輩は、私の憧れの存在。その先輩がお尻を……。

私が立ち止まって数歩先を歩く形になった先輩が、不思議そうに振り返る。
いけない、変に思われちゃう。
私は、慌てて歩き出す。しばらくすると、少し前を行く先輩が振り返って聞いてきた。

「そういえば、理沙のうちはどう? 門限とか厳しいの?」
「いや、あまり遅くならないように、とは言われるけど特に門限はないです」
「いいわね。うちは6時までに帰らないと、お仕置きものよ」

苦笑する先輩。お仕置きって……。思わず先輩のお尻に目が行ってしまう。

「ねえ、変なこと聞くようだけど、理沙はうちでお尻たたかれることある?」

え、私? あったら良いとは思うけど、ないわね。でも、話をあわせてみても良いかしら。お尻たたきの話ができる機会なんて、めったにないし。

「……はい。たまに」
「そう、理沙も」

先輩は、少し考え込むようにうつむいていた。

「どの位、たたかれるの?」

先輩の問にどう答えるべきか、今度は私が考え込む。
ここは、適当にごまかすしかないわね。

「十回位、です」
「そんなもんなの? うちなんて、多い時は五十回とか百回よ」

それから、先輩とお尻たたきの話をしながら歩いた。嘘をついていることに少しの罪悪感を感じながらも次第に話に引き込まれ、私の家に着いてもしばらくその話に興じていた。

それにしても、先輩、みんな脱がされてたたかれるなんて……。うらやましいような、怖いような。私には想像もできない世界ね。

クラブの打ち合わせが終わって二人でリビングに入った時、先輩が隅に置かれている電子ピアノに気づいた。

「あら、あなたピアノ弾くの?」
「いえ、その弾くというか、時々遊ぶ程度です」

先輩は、私に弾いて良いか確認をとって、電子ピアノの前に座った。そして、アニメやドラマの主題歌を数曲、弾いてみせる。

「先輩、ピアノ上手ですね」
「昔、少しやってただけよ。母がピアノ教室やっているし」
「ピアノ教室ですか」
「ええ。で、そのピアノ教室もまた厳しいのよねえ」

厳しい、ってまさか……。

先輩は、ため息混じりに立ち上がると私の横に腰掛けた。

「ちょっと練習サボったりすると、すぐお尻たたき」

お尻たたきという言葉を聞いて、一瞬ドキリとした私の横で、先輩はジュースを一口飲んでから、続ける。

「以前は結構人気があったみたいだけど、最近は厳しすぎて人も減ったわね。まあ、半分趣味でやっているから別に人が減っても良いみたいだけど」

お尻たたき。
私はその魔法の言葉に魅せられ、ピアノの前で先輩のお母さんにお尻をたたかれている自分を夢想する。

先輩のうちでピアノ、そして……お尻たたき。

その夜、私はピアノ教室の、いやピアノ教室のお尻たたきのことが浮かんできてなかなか寝付けなかった。

チャンス、なのかしら。
これまでずっと望んできたものが、目の前にある気がする。でも、ピアノは特に好きというほどでもないし……。
いいわ、とにかく一度行ってみよう。

私はそう決心すると、明日にでも先輩にピアノ教室には入れそうか、聞いてみることにした。

それにしても、もうずっとお尻をたたかれる機会なんてなかったわね。

幼稚園の頃は、よく皆の前で先生にお尻をたたかれる子がいたし、私も時々お尻をたたかれていたっけ。あの頃からお尻たたきが好きで、わざとお尻をたたかれるようなことまでしたこともあった。何の部屋だったかは思い出せないけど赤い絨毯の部屋で、正座した先生の膝の上でのお尻たたき。
まあ、服の上からだし、そんなに痛くなかった気もする。でも、あの先生の手がいつ振り下ろされるか、と待ち構えている時のどきどきする感じと、お仕置き前に先生に軽くお尻をぽんぽんとたたかれながらお説教された時の先生の手の感触は忘れない。

小学校に入ってからも、宿題を忘れた時なんかに軽く竹の定規でたたかれることはあった。でも、なんというか物足りないし何よりみんなの前でたたかれるのが恥ずかしいというか悔しい気がして、少なくともわざとたたかれるようなことはしなくなった。
さりげなく友達に聞いてみると、家でお尻をたたかれる、という人も何人かいたっけ。ちょっとうらやましかった。

中学ではお尻をたたかれる機会もなくなって、前にもまして本やネットでお尻たたきが出てくる話を夢中で集めるようになった。

また、たたかれてみたいな。

その夜、なぜか先輩にお尻をたたかれる夢を見た。

次の日、クラブが終わって二人きりになった時に、思い切って先輩に聞いてみた。

「先輩」
「なに?」
「あの、先輩のうちのピアノ教室、今入れます?」
「え、うちの?」
「はい」

先輩は、びっくりした顔で私を見つめている。まさか、お尻たたきが目的なの、気づかれた?

「空き過ぎているくらいだから、大丈夫だとは思うけど……」

先輩は、少し戸惑った様子で考え込んでいる。

「本当にうちで良いの?」

確かに、昨日あんな話しをしたら、普通行きたいとは思わないかしら。
何か「先輩のうち」でやってみたい理由をつけてみようとも思ったけど、結局良い言い訳は思いつかなかった。

「ええ、少しやってみたくなって」
「わかった。聞いておいてあげる」
「お願いします」
「うちだといろいろ大変だと思うけど、まあがんばってね」

その夜、うちの母にもピアノ教室に通わせてくれるようお願いした。いきなりピアノ教室に行きたい、なんて言い出してどうしたのか不思議がられたけど、やってみたいなら行っても良い、とのことで通えることになった。
でも、動機が動機だけにちょっと後ろめたいものも……。まあ、でもうちの電子ピアノで遊んでいる時にもう少し弾けたら面白いのに、と思うことがあったのは事実だし、良いかしら。

あー、どきどきした。
今日は初めてのピアノ教室。少し話をしてピアノに触った程度だったけど、先輩のお母さんでもある響子先生は確かに厳しそうな感じの人だった。棚の上においてあった細い棒みたいなものは、まさか鞭?

もしかして、先輩もあれで……

しっかりと練習すれば誰でも弾けるようになる、とのお話だったけど、大丈夫かしら。やはり、やるからにはピアノもものにしなくちゃね。そして、できればお尻たたきも……。

終わったあと、先輩の部屋でクッキーをご馳走になった。話題はいつの間にか、お尻たたきへと。この間も、帰りが遅くなった上に学校の都合だったと嘘をついて百回以上たたかれたとか。携帯で注意されていたのは、そのことだったみたい。

その話の後、私は家でお尻をたたかれているというのは嘘でした、と謝った。先輩は、少し驚いた顔をして、すぐに意地悪な微笑を浮かべながら、言った。

「そう。それなら嘘をつくような悪い子は、お仕置きね」

え? お仕置き? お仕置きってやはり……。でも、冗談なのかしら?
先輩になら……お尻をたたかれてみたいけど。
でも、ねえ。

「そんな。冗談ですよね?」

さすがに、お願いします、とは言えず。

「ええ、冗談。ただ、仲間ができたと思っていたのにちょっと残念ね」
「仲間ですか。あ、でも私も幼稚園の頃は、先生にたたかれたことがあります」
「そうなの。そうよねえ、普通お尻たたきなんて小さい頃だけよね」

先輩のうらやましそうに見つめる視線に、何と言えば良いかわからず、私は黙り込んだ。そこに、先輩がはっとした顔で続ける。

「あ、でも理沙もこれからは……ってごめんなさい」

そう、これから私が通うこの家ではお尻たたきがある。私にもチャンスが出来たわけ。先輩、謝ることないです。

「いえ、これで私も先輩の仲間ですね」

笑顔の私を見て、先輩は不思議そうにつぶやいた。

「なんか嬉しそうね」
「え、いや嬉しいというか、先輩の仲間になれると思うと」

私は、あわててごまかす。先輩のお仕置きを受けられなかったのはもったいなかったけど、これからは先輩の仲間。そう考えると、本当に嬉しくなってきた。

今日、ピアノ教室で初めてお尻をたたかれた。
前回うまくできなくて練習しておくよう言われていたのをすっかり忘れて同じ所で躓いたら、その場で立たされて服の上から定規で一回。服の上からだったからそれほど痛くもなかったけど、少しふらついてしまった。

それにしても、たたかれた後で次からは下着も下ろしてたたくわよ、ときつい声で言われたのは、単なる脅しじゃないわよね。
怖いような、楽しみなような。

今日は、二回目のお尻たたき。気持ちよくお昼寝していたら、寝過ごしちゃって三十分以上の遅刻。前回も遅刻していたから、今日は許してもらえなかった。

自分で下着も下ろさせられて、膝の上に載せられてのお尻たたき。これぞまさに私が想い描いていた「お尻たたきの図」そのものだったから、わくわくしていたんだけど最初の一発のあまりの痛さにその淡い期待も吹き飛んじゃった。
反射的にお尻をかばおうとした手をねじり上げられて、二十回位たたかれた。

想像以上に痛かったけど、でもたたかれているうちにこうやってお尻たたきに耐えている状況というものにすごい興奮してきて、変な気分になった。たたかれた後、今後ちゃんとできなかったら、もっとたくさんたたく、と言われている間にも、まだ余韻に浸っていたっけ。

もっとたくさん、か。もう少し軽いお尻たたきなら良いんだけど、それじゃお仕置きにならないわね。でも、今日みたいなお尻たたきもたまになら良いかも。

レッスンの後、帰ってきた先輩と少しお話。今日のお尻たたきのことを報告すると、先輩は真顔で

「あなた、見込まれたみたいね」

と言った。

「え?」

意味がわからず問い返すと、先輩は私を興味深そうに見つめながら続ける。

「つまりね、あなたを本格的にお尻をたたいてでも鍛えるつもりになった、ということよ。ちょっとした趣味程度で適当にやっていればよい、と思う人ならせいぜい服の上から定規で数回たたくくらいなの」
「そうなんですか」
「まあ、理沙には素質があるってことじゃないかしら。見込まれた相手が悪かったかもしれないけど」

それからは、時々お尻をたたかれるようになった。先生はたくさん宿題を出すんで、ちょっとサボるとすぐに追いつけなくなってしまう。そして、練習不足でミスをすると、すぐお尻たたき。スカートを捲り上げられ下着も下ろして先生に裸のお尻を晒すのはちょっと恥ずかしかったけど、それもやがて慣れた。

最初は何とかして逃れようとさえしたお尻たたきの痛みも、いつの間にか待ち望むようになって、私は前以上にお尻たたきの虜になっちゃったみたい。「お尻たたき仲間」になった先輩ともお尻たたきの話をするようになって、まるで夢のような日々。
 ついには、わざとお尻をたたかれるようなことをするようになったりして。

ただ、やはり私の気持ちは先生にバレていたみたい。

その日は、十分位遅刻してお尻をたたかれた。
この程度の遅刻だとそれほどたたかれないから、最近は良く遅刻するようになったんだけど、これがいけなかったのね。二十回位のお尻たたきの後、これで終わりかと思ったら、先生がお尻を包み込むように手を乗せてきた。

さすがにこうも遅刻が多いと、もっとたたかれるのかしら。と思っていたら、

「理沙、あなたお尻をたたかれたいの?」

突然の問い。

え、これってバレてるってこと?
いや、単に最近遅刻が多いからもっと注意しなさい、という話よね。そう自分を納得させて、答えようとした私の言葉は途中で飲み込まれた。

「いえ……」
「お尻をたたかれるために、わざとやってるんでしょう?」

うそ……。

「どう見ても、わざとやっているとしか思えないのよね」

やはり、バレてた……。何も言えずうつむく私に、先生はさらに言葉を続ける。

「この頃よく遅刻してくるのも、遅刻ならあまりたくさんはたたかれないから。違う?」
「そんな」

否定しようとした私の言葉は、お尻への一撃に飲み込まれた。

「正直に言いなさい。わざとね?」

お尻に残るジーンと来る余韻と先生のこれまでとは少し違う、どこか温かみのある声。

どうしよう。バレちゃっているみたいだし、言っちゃった方が良いのかしら。
 でも……。

「……いえ」

もうバレてるみたいだけど、やはり自分から認めることはできなかった。お尻たたきへの興味は、これまで誰にも言えなかった、私の秘密だったから……。

「あら、そうかしら」

先生のあきれたような声。

「もし、わざとやっているんじゃなくてこんな調子なら」

パチッ。両手でお尻を包み込むようにたたかれ、ビクッと体を震わせる私に、先生は最後通告を突きつけた。

「もうやめた方がよいわ。本当にわざとじゃないの?」

ここでわざとでした、と言ってもどうせもうここには通えないのよね。なんだか情けなくなって泣き出しそうになる自分を必死に抑えていたら、先生が優しく語りかけてきた。

「理沙、もしわざとやっていたとしても、これからちゃんとやればそれで良いわ」

これから?

それって、これからもここに通っても良いってこと?
私みたいにお尻をたたかれたいなんて子、変だと思わないのかしら?

さらに、先生は一息つくと意外なことを言った。

「あなたのような子、時々来るのよね」
「私のような?」
「そう。お尻をたたかれたくて来る子」
「!」

そんな……。他にも、お尻をたたかれたいと想っている人が……。

「だから、そういう子にはお尻をたたいてあげることにしているの。もちろん、ピアノにもきちんと取り組んでもらうけどね」

呆然としている私に、先生は再度問いかける。

「で、どうなのかしら。わざとやっていたんでしょ?」

先生なら、私の気持ちもわかってくれるかもしれない。私は、勇気を振り絞って答えた。

「はい。ごめんなさい」

それは、私の初めての告白。

「そう、わかったわ。これからはちゃんとやるわね?」

返ってきたのは、先生の優しい声。ほっとした私は、元気よく答える。

「はい!」
「あなたは、本気でやればものにできるはずよ。文字通りお尻をたたいてあげるから、がんばりなさい」

その後、先生はしばらく優しくお尻をたたいてくれた。言いようのない解放感と、安心感に浸りながら、私はそのゆったりとしたリズムに身を任せる。

しばらくすると、先生の手が止まった。現実に引き戻され急に恥ずかしくなった私に、先生がちょっと怖い声で言う。

「さて、お尻をたたかれるためにわざと遅刻したり怠けたりするような子は、どうなるかを教えてあげなくちゃね」

え、それはやはり……。

「あなたのお望みどおり、そして、二度とこんなことをしないように、たっぷりとお尻を懲らしめてあげます」

お尻を軽くたたきながらのお言葉。
いや、今日はもうたたいていただいたんで、特にお望みというわけでは……。
なんて言っても無駄ね。

それから、そのまま百回以上お尻をたたかれた。このまま永遠に続くんじゃないかと思うような、ひたすら続く平手打ち。ものすごく痛くて、最後の連打では思わず泣き出しちゃった。でも、平手打ちが終った後はなにかすっきりしたような気分だった。

「立ちなさい」

先生の膝の上でボーっとしていると、先生にお尻をぴしゃりとたたかれた。ゆっくりと体を起こすと、不意にお尻に痛みが走って息を呑む。でも、この痛みもそしてお尻の少し引きつるような感じも、これまで誰にも言えなかったお尻たたきへの想いを告白して思いっきりお尻をたたかれたせいか、どこか心地よかった。

そんな余韻に浸っている私に、先生は思わぬことを言った。

「棚の上の鞭をとってきて」

え?

「最後に鞭で十回たたいてあげる」

嘘! まだたたかれるの? それに鞭って……。

「い、いや、もう…いいです」
「早くしないと数を増やすわよ」
「そんな……」
「今日は、まじめにやらないとどんな目にあうか、あなたのお尻にしっかり教えてあげないと」

私の抵抗もむなしく、いすの上に腹ばいにさせられての鞭打ち。細い棒のような鞭は、ものすごく痛かった。最初の三発くらいで泣いてやめるよう頼んだけど、逆にちゃんと受けないと数を増やすと言われて必死で耐えた。
これからはちゃんとしないとお尻に鞭が飛んでくるから注意しなさい、なんて言われちゃったけど、ちょっとこれは勘弁ね。本当に注意しないと……。

お尻たたきが終わって少し落ちついてから、いつもよりはだいぶ短いレッスンを受けた。いすに座るお尻が少し痛んだけど、たいして気にならなかった。というか、これ以上痛むお尻をたたかれないよう必死だったんだけど。

そして、レッスンが終わって帰る時に先生が一言。「私もあなたと同じ。子供の頃から、お尻たたきに憧れていたの」って……。

それから数週間後の練習の日。

「さあ、じゃあ今日の分ね。お尻を出しなさい」

今日の分のお尻たたきを受けるため、先生の膝の上に乗る。今日はまずまずうまくできたから、そんなに強くはたたかれないと思うけど。うまくできないと、ほとんどお仕置きと大差ない位のたたき方になるのよね。

膝の上でお尻を出して最初の一発を待つ。この、緊張感と期待の入り混じった、どきどきする感じも嫌いじゃない。

そして、お尻たたきが始まった。時に強く、時に弱く。強くといっても今日のお尻たたきはどちらかといえば「ご褒美」に近いから、それほど強くはない。

ゆったりとした、三十回ほどのお尻たたき。毎回お尻をたたかれることになってからは、この練習の後の一時が楽しみになった。もっとも、うまくできなかった時にはできれば逃げ帰りたい気分になるんだけど。

今日はやさしくたたいてくれて……

っい、痛い。

最後は、強烈な三連打。これは、最後にちょっと失敗しちゃった分かしら?

お尻たたきの後、終わりの時間までにはまだ少し間があったのでお茶の時間。話題は、いつの間にか来月私が初めて出ることになった発表会のことに移っていった。先生が中心になっていくつかのピアノ教室の生徒が発表する、小規模な発表会。とはいえ、音大を目指す生徒もいるから、レベルはそれなりに高いみたい。

「理沙、来月の発表会で五位以内に入りなさい。入ったら、ご褒美にたっぷりお尻をたたいてあげるわ」

そんな。上位に入ったらお尻たたきなんて。
でも、先生のご褒美のお尻たたきはいつまでもたたかれていたい位だから、悪くはないかも。

とはいえ、最近はお尻たたきだけじゃなくピアノも好きになってきて少しずつ上達してきたけど、五位は無理じゃないかしら。

「まあ、入れなくても次からはもっとがんばれるようにたっぷりたたいてあげるけどね」

って冗談よね。と思って先生の顔を窺うと、そこにあったのは悪魔の微笑。
まさか、本気?

それからは、先生に文字通りお尻をたたかれながら本格的にピアノをやった。だんだんピアノが好きになっていって、コンテストでも入賞できるようになったんだけど、いつになっても厳しいお尻たたきを受けている。でも、そのお尻たたきも今ではよい刺激というか、ある意味ピアノが上達する原動力にもなっている気がするわね。

先生からは、将来は音大に進んでピアノを職業にしたら、と言われているけど、どうしよう。自分のピアノ教室を開くのも良いかしら。