紅尻文化女学院公開講座-1
「それでは、次にこの写真を見てみましょう」
先生の声とともに、スクリーンに映し出される数々の写真。そこに写っているのは……痛々しい蚯蚓腫れが走る、真っ赤に腫れ上がったお尻たち。
「これらは、当学院で標準鞭と呼んでいる革鞭で叩かれたお尻です」
静まり返った教室に、先生の解説が響く。見たところ20代後半、ちょっと太目で生真面目そうなお姉さんといった感じの先生。ごく自然にお尻の写真を指しながら解説していく。
「いずれも、当学院で行われている実習授業で撮影した写真です。当学院では、入学すると最初にお尻を叩かれるということがどんなことなのか体験していただくために、とにかくお尻を徹底的に叩かれる実習があります」
そ、そんな実習が。
「この実習では、自分の、また他の人のお尻がどれだけ叩かれるとどんな状態になるか、そして時間が経つとどうなるか、実際に記録を取りながら理解していただきます」
唖然とする私の前で、先生は一枚の写真をポインタで選び拡大表示した。
その写真に写るお尻は、全体に紅く染まり、所々青っぽい斑点も見える。さらに、中心付近に一際鮮やかな筋が何本も走っていた。写真の下には「パドル60、標準鞭30、10分後」の文字。
「これは、パドル打ち60回と鞭打ち30回を終えて10分後のお尻の写真です」
うっ、痛そう。でも、一度こんなになるくらいまで叩かれてみたいかも……。
そう、私はこんな「本物」のお尻たたきを受けてみたくて、この「紅尻文化女学院」の公開講座に参加したのだから。
私が初めて紅尻文化女学院のことを知ったのは、昨年の秋。「刑罰や体罰、宗教祭礼行事や文学などの実例と実体験を通してお尻たたき文化を学び、その根底にある人間の想いを見つめる」という趣旨に感動してぜひ入りたい、と思ったんだけど、なかなか思い切れなかったのよね。
で、つい先日紅尻文化女学院のサイトで告知されたのが「春休み特別公開講座」。誰でも無料で受けられる上にお尻たたきの「体験実習」まである、という説明を見てすぐに申し込んでみた。
そして、今日はその公開講座の初日。今は、その最初の講座で紅尻文化女学院で行われているお尻たたきの状況を説明している。
次々に映し出される、紅く染まったお尻たち。先生以外は、誰も一言も発せずスクリーンに見入っている。もっとも、誰もしゃべらないのは、お尻の画像や先生の話に集中しているというだけでなく事前に渡された「公開講座参加者手帳」のせいでもあるのかも。
その手帳は、結構な厚さがあるんだけど、その大部分が
- 受講中は常に集中して取り組まなければならない。違反者はパドル10以上の尻罰を受けなければならない。
- 受講中に私語をしてはならない。違反者はパドル15以上の尻罰を受けなければならない。
- 特別な事情や事前の許可がある場合を除き、遅刻してはならない。違反者はパドル10以上の尻罰を受けなければならない。
- 故意に嘘をついてはならない。違反者はパドル20以上の尻罰を受けなければならない。ただし、尻罰を逃れるために嘘をついた者は、パドル50以上に加え標準鞭20以上の尻罰を受けなければならない。
- 自らの違反により尻罰を課されようとしているときは、素直に非を認め反省の上で尻罰を受けなければならない。違反者は標準鞭10以上の尻罰を受けなければならない。
- みだりに騒ぎ、またお尻を手で覆うなどして尻罰の執行を妨害してはならない。違反者はパドル10以上、または標準鞭6以上の尻罰を受けなければならない。
- 他人を陥れ尻罰を受けさせようとしてはならない。違反者は重パドル100以上に加え破尻鞭50以上の尻罰を受けなければならない。
って感じなのよね……。ちょっと昔の生徒手帳にあるような校則に罰則規定がついた感じかしら?
それにしても「尻罰」って。感じとしてはすごくよくわかるんだけど、ちょっと怖い。パドルとか標準鞭とか言うのでお尻をたたかれると……やはり写真みたいになるのかしら? たしかにお尻は叩かれたいけど、鞭はちょっとねぇ。
パドル10程度の尻罰なら受けてみたいかも、と思ったけど手帳には
- 尻罰を受けるため故意に違反をしてはならない。違反者は標準鞭30以上の尻罰を受けなければならない。
とあるし……。などと物思いに耽っていると
「そこ、何しているの!」
いきなり先生の厳しい声が飛んできた。
え、まさか私?
「す、すいません」
違った。後ろの人たちが何か話していたみたい。
先生は、手元のキーボードに何か打ち込むとそのまま何事もなかったように説明を続ける。
その後も思わずお尻を押さえたくなるような写真や動画の数々、そして想像以上の「講義」の状況のお話の連続だった。
「では、次に当学院の尻罰についてお話しましょう。当学院では、学院内の秩序と良好な学習研究環境を維持するためにいくつか規則があり、その規則を破ったときには尻罰というお尻を叩く罰を受けることになっています」
先生は、スクリーンの脇にかけてある木の板を手にとって続けた。
「これが、その尻罰用のパドルです。樫の木で作ったもので皆さんにお渡しした手帳にパドル何回以上、といった規定がありますが、それはこのパドルで執行されます」
それは、長さ50cm位で手元が細く先の方が少し膨らんでいる、細長いしゃもじ、あるいはボートのオールのような木の板。少し黒っぽくて、硬くて少し重そうな感じ。
これでお尻を……
先生のお話によると、規則を破った生徒はまずその場で皆の前でお尻を叩かれ、さらにその後担当の先生からも追加の罰を受けるみたい。いずれも下着も脱がされて……。
「今日は、ビデオで尻罰の様子を見ていただこうと思っていたのですが……」
先生は、なぜか私の方を見つめながら続ける。
「残念ながら、実際にここで尻罰を行わないといけなくなりましたね」
ここで?
「紗枝さん、立ちなさい」
しばらくして、後ろから椅子を引きずる音が。私と同じくらい、ちょうど高校を卒業したばかりといった感じの紗枝さんに注目が集まった。先生は、身を縮めている紗枝さんに問いかける。
「あなたは、先ほど私語をしてはならない、という規定に違反しましたね?」
私語って、さっきの……。
「……はい」
小さな声で答える紗枝さんに、先生は落ち着いた調子で話しかける。
「今日は、いきなりいろいろな写真を見せられて思わず、という面もあったかもしれませんが、やはり講義中は私語を慎んでいただかなくては他の方の迷惑にもなります」
俯いたまま小さく頷く紗枝さん。
「あなたには、これからパドル打ち15回の罰を受けてもらいます。よろしいですね?」
「はい」
紗枝さんは俯いたまま、小声で答える。
「さて。次に智子さん」
「え?」
紗枝さんの隣の席からの驚いたような声。
「あなたも私語をしてはならない、という規定に」
智子さんは、先生の言葉をさえぎるように声を上げる。
「そ、そんな! 私は話しかけられたから……」
先生は、一段高くなっている教壇を降りると厳しい顔つきで私の方、智子さんの席へ向かってくる。
「何を言っているんですか。どう見てもあなたからも話を続けていたでしょう」
うろたえる智子さんの前に立って智子さんを見据える先生。
「もう一度聞きます。あなたは、私語をしてはならない、という規定に違反しましたね?」
「それは……その。で、でも」
先生は軽くため息をついて少し屈みこむと、俯く智子さんの顔を見ながら言った。
「残念ながら、あなたは素直に自らの非を認めなけなければならない、という規定にも違反していますね」
驚いて思わず顔を上げる智子さん。
「え、そんな! 私はただ……」
なおも言い募ろうとする智子さんに、先生はため息混じりに言う。
「まだ言い訳を続けるつもりかしら?」
先生は、体を起こし厳しい声で問いかけた。
「はっきり答えなさい。あなたは、私語をしてはならない、という規定、それに素直に自らの非を認めなければならない、という規定に違反しましたね?」
智子さんは、小さな声で答えた。
「……は、はい」
それを聞いて前の方へ歩いていく先生。再び皆の前に立つと、厳しい声で宣告する。
「智子さん、あなたにはパドル打ち20回と標準鞭の鞭打ち10回の罰を受けてもらいます」
ただうなだれている智子さん。先生は、隅の方に置かれていた机とも台ともつかないものを中央の方に持ってきた。
「では、まず紗枝さん。前に出てきなさい」