「どうしたの!?」
特務機関ネルフのセントラルドグマ閉鎖区特殊実験室に突如鳴り響く警報音。実験を統括する赤木リツコ博士は、部下の伊吹マヤ三尉が操作している制御端末に駆け寄る。
「レーザー照射位置がずれています。試料外縁部、加熱!」
「試料表面温度260ケルビンに上昇、たんぱく質の変質が始まっています!」
薄暗い実験室内の中央、ガラス容器の中に浮かび上がる白い塊。その表面に白煙が燻り始める。
「実験中止。レーザー止めて!」
「実験中止。レーザー照射停止しました」
明るくなる室内。モニタを見つめるマヤが声を上げる。
「だめです! 冷媒沸騰、試料内部の圧力急上昇、緊急与圧間に合いません!」
「なんてこと……」
白い塊は、リツコの目の前で膨張し、砕け散った。
こうして、赤木リツコ博士の指揮の下で実施された第一回アダム生体細胞分離実験は、失敗に終わったのだった。
「マヤ、何かわかった?」
試料を取り出し機材を洗浄したリツコとマヤは、記録を呼び出してレーザー照射がずれた原因を探り始めた。
「いえ……。ただ、このプログラムの実行時パラメータが少し気になります」
「どれ……」
リツコは、マヤからプログラムが記録された記録片を受け取りPDAにかざした。プログラムが読み込まれると、数度画面をタップして検証プログラムを起動する。
「マヤ、このプログラム……」
指を止めて画面に見入るリツコ。
「これ、修正前のじゃない?」
「え? 修正、ですか?」
リツコは、マヤの横に移動し端末にプログラムを表示してみせる。
「ここよ。この変数の計算式」
「あ!」
何かに思い当たったのか、小さく声を上げるマヤ。
「この式だと制御範囲を超えるから修正しておきなさい、って言ったわよね?
呆然とするマヤに、リツコは厳しい声で問いかける。
「どうしてそのままだったのかしら?」
「す、すいません。その、忘れてました」
リツコは深いため息をつくと、後ろのベンチに倒れるように座り込んだ。
「何やってるの! あれほどチェックリストで確認するよう言ったでしょ」
「すいません」
リツコは、しばらくうっすらと涙を浮かべてうつむくマヤを見つめていたが、やがて意を決したように立ち上がると、マヤの後ろに立つ。
「マヤ」
「…はい」
「今回の試料は、膨大な手間をかけて採取したサンプルを40日もかけて培養した貴重な物なの」
「…」
「それを事故とすらいえない初歩的ミスで失ってしまった」
肩に置かれたリツコの手にびくりと全身を震わせるマヤ。
「やはりあなたには、まだ注意力が足りないようね」
「…はい」
リツコは、身を翻してベンチに戻る。そして、そのまましばらく目を閉じ考え込むように座り込んでいた。
「マヤ、来なさい」
居心地の悪い静寂を破るリツコの声。マヤは手を握り締め、立ち上がる。そして、リツコの前に歩み寄ると俯いたまま問いかけた。
「その、先輩…やはり」
「ええ、お尻ね」
マヤは、自らスカートを捲り上げて下着を下ろすと、リツコの膝にお尻を差し出す。
リツコは、マヤの体を抑え込むように深く座りなおし、白衣の袖を捲り上げた。マヤは目を閉じ、リツコの膝の上で体を安定させる。
「行くわよ」
リツコは、思いっきりマヤのお尻をたたき始めた。
無防備なお尻に襲いかかる休む間もない平手打ち。マヤは、ベンチの脚にしがみつくように腕を回しひたすら耐えた。時に悲鳴を漏らしそうになっても、必死に飲み込みながら。
打ち放しのコンクリート壁に、時折こらえきれなくなったマヤの呻き声をまじえながら湿った打撃音が響き続ける。
やがて、100回ほどの連打でマヤのお尻全体が薄紅色に染まったころ、リツコはようやく手を止めた。
リツコは、全身にうっすら汗をかいたマヤの体を抱きかかえて立たせる。マヤは、痛むお尻に顔をしかめながら、なるべくゆっくりと立ち上がった。
「この上で待っていなさい」
リツコは立ち上がると、マヤをベンチにうつぶせにする。そして、紅に染まったお尻を一瞥してから、部屋の奥に歩いていく。
…今日も定規かしら?
マヤがリツコにお尻をたたかれるようになったのは、高校生の頃。当時マヤの家庭教師だったリツコは、マヤが課題をやっておかなかったり、何度も同じ間違いをすると容赦なくお尻をたたいた。最初は服の上から数度平手打ちされる程度だったが、やがて服も脱がされるようになる。
さらに、マヤがリツコが博士課程に在学していた大学に入って同じ研究室に所属するようになると、実験のミスなどで時に木の定規でたたかれるようになったのだ。そして、そのお尻たたきは、二人がネルフに就職してからも続いている。
「マヤ」
「はい」
帰ってきたリツコの声に振り返ったマヤは、リツコの手に握られている物に目をとめる。
「先輩、それは?」
「精神注入棒よ。ミサトのお土産」
「葛城一尉……ですか?」
「ドイツでは、ミサトもアスカもずいぶんこれで扱かれたみたいね」
軽く素振りしてみせるリツコ。その重い風切り音に、マヤは思わず首をすくめる。
「これはあなたのような不注意者のお尻に、注意する精神を叩き込むためのものなの」
「そ、そんな!」
いつもたたかれる定規より一回り太く、また厚い精神注入棒。すでに平手打ちでそっと動かすだけで痛む状態になっているお尻を、あんなものでたたかれたら……。マヤは、歩み寄るリツコの足音に逃げ出したい気分になった。
「今日は、これであと40回。いいわね?」
「…はい」
今回は、自分の単純なミスで貴重な試料を失ってしまっただけに、マヤは素直に頷くしかなかった。
お尻に当たる冷たい感覚。マヤは、わずかにお尻を持ち上げるようにし身構える。
そして、振り下ろされる第一打。その定規以上の激痛に、マヤは文字通り飛び上がるように体をのけぞらせた。
「い、や!」
リツコは、無表情でお尻に置かれたマヤの手を振りほどくと、冷たく言い放つ。
「今のはなしね」
そして、マヤが痛みの残るお尻をやっとの思いで元の位置に戻し、姿勢を正した瞬間、次の一打を叩き込む。
「ぃいっ」
声にならない悲鳴をあげ、必死にベンチにしがみつくマヤ。しかし、強烈な連打を受けてついにベンチから転げ落ちた。
「せ、先輩。もう、許してください!」
地を這い哀願するマヤを冷たく見下ろすリツコ。
「無様ね」
マヤは、ついにすすり泣き始める。
しばらくして泣き止んだマヤがそっとリツコを見上げると、リツコは精神注入棒でベンチを指し示した。マヤは、項垂れてゆっくりとベンチの上に倒れこむ。お尻はすでに所々擦り切れたように皮膚が破けていた。
今度は、ややゆっくりとしたペースで振り下ろされる精神注入棒。しかし、その打撃は前にも増して力強く、マヤはベンチを抱え込むようにして耐えていた。
リツコは、時折打つ間をあけお尻の緊張が薄れるころを見計らって打ち下ろす。その度にマヤは悲鳴を上げ体をのけぞらせた。
やがて、お尻にうっすらと血がにじみ始めたころ、ようやくお尻たたきは終わった。リツコは、白衣を羽織りなおし腕を軽く揉み解している。
「試料、廃棄しておきなさい」
リツコは、ベンチの上でぐったりとしているマヤにそういい残すと立ち去っていった。
翌日、出勤してきたマヤは、自分のいすに見慣れない猫の絵が描かれたクッションが置かれているを見つけた。
「それ、あげるわ。あなたにはしっかり仕事してもらわないと困るから」
リツコは、戸惑うマヤにコーヒーを手渡しながら声をかける。
「え、その、ありがとうございます」
どこか萎縮して返事をするマヤ。クッションの上にそっとお尻を乗せる。
「さ、今日からまた実験再開の準備よ」
それから50日間、マヤはリツコにお尻をたたかれながら再実験の準備を進め、今度は成功させたという。